考えよう、災害とエコノミークラス症候群
2016年4月14日に前震、16日に本震が襲った平成28年熊本地震。この災害では、避難生活によるストレスや持病の悪化などで亡くなる震災関連死も相次ぎました。とりわけ静脈血栓塞栓症、通称「エコノミークラス症候群」が原因となる事例についてはニュースでも多く報道され、記憶に残っている人も多いでしょう。
では、なぜエコノミークラス症候群が多発したのか。ここでは、その原因や予防策をお伝えしていきます。
エコノミークラス症候群は「水分不足」と「長時間の座位」から
「エコノミークラス症候群」という名称から、「エコノミークラスで起こるもの」と思う人もいるかもしれませんが、先ほど述べた熊本地震の事例でもあるように、エコノミークラスに限り発症するものではありません。
エコノミークラス症候群は、食事や水分を十分に取らない状態で、長時間座り続けている状態で発症しやすくなります。このままさらに足を動かさない状態が続くことで血行不良が起きて、血栓が発生し「肺塞栓症」を引き起こすことをエコノミークラス症候群と言います。
血栓ができた状態で、急に立ち上がった時に血栓が血流に乗って肺の静脈に詰まってしまい、静脈での狭窄・閉塞・炎症を発生させ、時に、突然死の原因ともなるのです。
熊本地震では車中泊後に死亡した人が多くいた
ニュースでは、車中泊をした後に死亡したことが多く報じられました。ではなぜ、避難所への避難ではなく車中泊を選んだのでしょうか。
避難者が車中泊を選んだ原因として、避難所はプライベートの確保が難しく他人に気を使うことや、落ち着ける環境ではないこと、余震で避難施設が倒壊する恐れがあったこと、また、車に乗っていればすぐに避難できるという考えがあったことなどが挙げられています。
しかしながら、せまい車内に長時間座り続けると下肢の血行不良を招きやすい状態となり、それだけ発症リスクが高まります。車中泊を選ぶ際には、ときどき外に出る、または足を伸ばせる環境を作るなど発症リスクを少しでも減らすことを心がける必要があります。
避難生活では、食事や水分が不足しやすくなる
実際の避難生活では、食事や水の確保が難しくなることは容易に想像できるでしょう。食事や水分を十分に取らない状態が続くと、脱水傾向となり血液粘度が上昇します。血液粘度が上がるということは、当然、血栓発生のリスクが高まるということです。
また避難者の中には、トイレに行く回数を減らすために水分を控える人も多くいました。これは、「使用できるトイレの数が限られている」「屋外の仮設トイレは怖い」「トイレまで遠い、寒い、段差がある」「トイレ待ちの人が長蛇の列になっている」など、さまざまな理由でトイレに行くことを気にして、水分摂取量が減ってしまったためだそうです。
こうしたことも、エコノミークラス症候群を誘発した一端とも言えるでしょう。
エコノミークラス症候群を予防するには
上記の事例から、予防のためには食事・水分を十分に取り、かつ同じ姿勢をとり続けないことが重要となります。保存食や水の準備はもちろんですが、車中泊の際は「車中泊マット」を利用するなどでもエコノミークラス症候群発症のリスクを抑えることができます。
また、お茶、コーヒー、アルコール等は利尿作用があるため、水分補給には適しません。水分を取るときは、可能な限り、上記のものは避けるようにしましょう。
厚生労働省では予防策として、以下のことを推奨しています。
- ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う
- 十分にこまめに水分を取る
- アルコールを控える。できれば禁煙する
- ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない
- かかとの上げ下ろし運動をしたりふくらはぎを軽くもんだりする
- 眠るときは足をあげる
出典:厚生労働省ホームページ「エコノミークラス症候群の予防のために」より抜粋 (https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000170800.pdf)