日本でバックパッキングという言葉が一般的になったのは、76年に発行された故芦沢一洋氏の「バックパッキング入門」あたりからでしょうか。バックパッキングというのは、バックパックに荷物をパッキングして旅をすることです。バックパックと言えば、ケルティやジャンスポーツのフレームパック(アルミフレームにナイロンのバックが付いたもの)を思い浮かべます。
1960年代の後半からアメリカ西海岸を中心に起こったサブカルチャー、ヒッピーだったり、ベトナム反戦だったり、の物質文明や自然破壊に対する、反対運動の一つとして、かなり精神性を重要視されたものでした。極限まで切り詰めた食料や装備、生活用具の全てを背負って、何日もソロ(一人)で旅を続ける。
H.Dソローの「森の生活」など、哲学的な要素のある本などがバイブルのように読まれたりもしました。やがてバックパッキングは多くの人に親しまれるようになり、自然に親しむ、健康に良いなど、今日的な野外活動になりました。よく言われますが、バックパッキングと登山の違いはどこにあるのでしょうか。
登山の場合は、頂上が目的になります。途中のトレイルがいかに美しくとも(それを見ないという意味ではありませんが)目的は頂上に登ることにあり、トレイルの通過やキャンプは、あくまでもその過程であり手段です。一方バックパッキングは、別に登頂が目的ではありません、というか別に山でなくても良いのです。自分が行きたい所を、好きなように歩けばそれで良いのです。20年ほど前に、アメリカのシエラクラブのメンバーが来日し、一緒にバックパッキングしたことがあります。北八ヶ岳を縦走したのですが、途中双子池が綺麗だと言って予定変更し、そこに2泊しました。山を歩いていても、目的は頂上ではなかったのです。好きなところで好きなように過ごす。その時、これがバックパッキングなのか、と思ったものです。
さてバックパックです。パックの容量はリットルで表されます。海外のロングトレイルや、登攀用具を持って一週間の合宿であれば75Lもいるかも知れませんが、最近の装備は軽く小さくなってい
るので、テントを入れても60Lもあれば十分です。その前に、ほかの装備でもそうですが、自分が行きたい場所や季節を想定しましょう。そうすればおのずと必要な装備が浮かんできます。その装備が入る大きさのパックを探しましょう。おおざっぱな目安として、無雪期の日帰りなら30L前後のデイパック、山小屋利用2〜3泊なら40L前後というところでしょうか。テントの場合は、バーナー、コッフェル、スリーピングバック、食料などが追加されるので、やはり50Lから60Lになります。パックにはバックレングスといって、パック背面の長さがあります。自分の首の骨の一番下から骨盤の上までの長さがトルソーレングスです。自分の背中の長さとパックの長さが合わないと、せっかくのヒップベルトに重さを分散させることができません。中型以上のパックは、ハーネスの付け位置を移動することができますが、移動できないパックは背負ってみるなどして、長さを確認しましょう。
ザックがただの袋で、背中のフレームもヒップベルトも無い時代はパッキングが重要で、ザックを見ればその人の経験が解る、などと言われたものですが、現代のパックは、背中にパッドやフレームが入っているので、昔ほどパッキングに気を使わずに済みます。それでも疲労しないためのバランスは必要です。原則としては、軽いものが下で重いものは上です。重心が肩に近い方が後ろに引かれないので、歩きやすいといわれています。さらにあまり使わないものは下で、よく使うものは上です。予備のソックスや衣類、雨具などは下です。食料やバーナーなどは上です。フラップにポケットのあるパックは、ポケットに行動食や小型カメラなどを入れます。雨の予報だったら、雨具は一番上にします。パックの外側にコップなどを下げている方を見かけますが、歩行中に引っかかったり、汚れたりするので、熊鈴以外は中に仕舞ったほうが衛生的で安全です。